電子情報通信学会 研究会@札幌(2025/7/15-17)参加
- Yuka Kudo
- Aug 1
- 4 min read
なんだかんだスイスに戻ってきたり、すぐにそのままエディンバラ出張行ったりで報告が遅くなってしまいましたが、7月、真夏の札幌で開かれた電子情報通信学会の研究会に参加しました。
会期は7月15 ~17日。
3日間で40件超の発表が怒濤のように続いた会場の雰囲気と個人的に刺さった5テーマを中心にまとめました。
気になるキーワードがあれば、ぜひ論文を読んでみてください。
会場の空気感
アカデミア6割、企業2割。生成AIブーム、特にLLMの追い風で若手エンジニアや研究者の姿が目立ちました。
Pick-up 1
マークル木で「後方非互換」を自動検出!
『マークル木を用いたライブラリ後方非互換性特定手法の自動化と有用性評価』
山﨑 和真・嶋利 一真・松本 健一(奈良先端大)
ライブラリ更新時に潜む“破壊的変更”を、マークル木+木編集距離で機械的に洗い出すパイプライン。
Bash一発で差分ノードを候補抽出できるのが爽快でした。
多言語で横展開できそうです。
CI/CDに溶け込む速度が鍵。
差分計算の高速化とログ解析の自動フィルタが次ステップかなと思いました。
Pick-up 2
LLM×レガシー —— COBOL理解力を1 時間 → 5分で評価
『LLMによるCOBOL理解能力の効率的かつ高速な評価手法の提案』
正木 俊伍・岡田 譲二(NTTデータグループ)
NTTデータのチームが提案した「LLM-as-a-Judge」方式。
LLM自身にCOBOL仕様書の復元タスクを採点させ、18観点×5段階のリッカートでスコアリング。
人間10名と相関0.87という高一致率を記録。
LLMを評価者に据える逆転の発想。
モデル更新サイクルが速い今こそ“自動ベンチマーク”は不可欠。
Pick-up 3
養殖魚の突然死を救え! ― 転移学習で水槽間ギャップを吸収
『水産養殖業における魚群異常検知システムへの転移学習導入』
大西竣也・高橋竜一(茨城大)
CNNモデルを水槽ごとにゼロから再学習する手間を、転移学習でカット。
精度+10~+44pt、学習時間20-30%削減を達成。
IoT機材はラズパイレベルでOKとのことで、現場導入をぐっと現実的に。
魚とカメラの距離が近すぎると学習が偏る――データ収集設計の大切さを再認識。
Pick-up 4
センサ × 対話エージェントで “生活リズム” を丸ごと可視化
『環境センシングと対話エージェントを用いた生活リズム自動評価システムの検討』
村手亮太・松川晃徳・安田 清・中村匡秀(神戸大)
室内環境+ウェアラブル+会話ログをAirflowで統合し、Social Rhythm Metricを自動算出するRizLog。
照度・心拍・在宅判定を組み合わせた就寝、起床推定がユニークでした。
高齢者QOLモニタリングへの応用も期待。
マルチモーダル時代の行動理解は“しきい値職人”から“パイプライン設計”へ。
Pick-up 5
「生成 AI × UML 図」―― 振る舞い図をCoTプロンプトで読み解く
『生成AIを用いた手書きフォームの高精度なデータ認識・抽出手法の検討 ~ 傷病者申し送り書を用いた検証 ~』
佐々木風太・中村匡秀(神戸大)・佐伯幸郎(高知工科大)
マルチモーダルLLMにChain-of-Thoughtを仕掛け、画像中テキスト抽出→オブジェクト切り出し→DFS 質問の3段階でGraphvizを生成。
ハルシネーション大幅減という結果に「これはドキュメント自動生成の未来かも」とワクワク。
画像+構造理解を段階的に深めるプロンプト設計は、図面系タスクの突破口になり得る。
さいごに
今回最多だったLLM系セッションは、いずれもモデル内部の理解より表層的な挙動のチューニングに焦点が当たり、正直「これはサイエンスなのか?」という疑問が残りました。
主観ながら気になった論点と今後への期待を整理します。
ブラックボックス化が動機化
仕様書とコード整合性研究でも「生成AIにより“意図がブラックボックス”なコードが増える」と問題提起。
表層バイアスの測定止まり
RAG類似度研究は文頭バイアスを統計で示したものの、重みや注意機構の解析までは踏み込まず。
LLM研究を「ブラックボックス表面磨き」から実証科学へ押し上げるには、まだまだ構造を覗く勇気が必要だと痛感しました。
3日間のセッションを通じ、「技術をどう組み合わせ、現場の痛点を解決するか」という視点が共通テーマだったように思います。
日本のソフトウェア研究の”今”を垣間見ることができて、非常に有意義でした。
札幌の美味しい日本酒の余韻を抱えつつ、研究と実務を行き来する日々をまた走ります。

ではでは
今回参加した研究会のURLはこちら